2016年、日本で行われたクラブW杯鹿島アントラーズとアトレティコ・ナシオナル戦で主要な国際サッカー大会としては初めてビデオ判定が導入され、話題になりました。
そして代表チームでの試合でも実験的に導入が進んでいて、韓国、オーストラリア、ドイツブンデスリーガでも導入が検討されています。
他の協議ではポピュラーになりつつあるビデオ判定ですが、現状サッカーではかなり遅れて導入の是非が議論されています。
サッカーにおけるビデオ判定のメリットとデメリットはどのようなものになっているのでしょうか?
VAR(ビデオアシスタントレフェリー)とは?
VARは主審の補佐。あくまで決定権は主審
現在導入が進められているサッカーにおけるビデオ判定のシステムは、その名を「VAR(ビデオアシスタントレフェリー」と言い、主審の判断を補助するシステムとして実験が重ねられています。導入目的は当然「誤審」を減らす事。
別室に置かれたビデオルームで専門のビデオアシスタントが随時色々な角度から移されたカメラをチェックし、主審にジャッジの助言をするというシステムになっています。あくまで判断の主役は「主審」で、最終的な決定権は全て主審にゆだねられます。
公式の主要国際大会で初めて実際に使用され、ジャッジが覆ったのは2016年に日本で行われたクラブW杯の鹿島アントラーズとアトレティコ・ナシオナルとの試合中のこと。
鹿島の西大悟選手がペナルティエリア内で足を引っかけられていたことをビデオアシタントが主審に伝え、ピッチ脇のモニターで主審が改めて確認。一度は流されていたファールが正式に認められて鹿島はPKを得ました。
VARが使われるタイミング
このVARの発動タイミングですが、疑わしいシーンすべてに適用されるわけではありません。
・ゴールに関係するシーン
・PKが疑わしいシーン
・レッドカード相当のプレーがあったシーン
・主審が警告の対象選手を誤っている可能性があるシーン
基本的にはこの4つの場面でしか使われない事になっています。なのでそもそも警告に値しない場面やゴール絡みではない場面には適用されないことになりますね。
前述の鹿島の例ではPKの可能性があるプレーだったので、リアルタイムで映像をチェックしているビデオアシタントから主審にインカムで伝えられたというわけです。
サッカーにおけるビデオ判定のメリット
ゴールラインを割ったかどうかの判断
サッカーではボールがラインを完全に割って得点が認められますが、今までほとんどの場面でそれは人間の目によって行われてきました。しかし2010年南アフリカW杯のドイツ対イングランド戦で、イングランドのMFランパードのシュートが完全にゴールラインを割っているのに認められなったという大事件が起こります。
それまでもゴールラインテクノロジーについては議論が重ねられてきましたが、この件で一気に導入議論が加速。今では様々なリーグで使われています。
サッカーというあまり得点の入らないスポーツの特性を考えると、このゴールラインの判定を機会に委ねるのは当然の結果と言えます。
シミュレーションの防止
サッカーで度々問題になるのはファールではないのにまるで反則があったかのように振る舞う「シミュレーション」という行為。
ペナルティエリア内でこれをやられると最悪PKが与えられることになるので、PKを獲得しようとペナルティエリア内で選手がコロコロ転がるというあまり見ていて気持ちのよくないシーンが多発します。
現状サッカーではそれも必要なテクニックとして認知されていますが、正直見苦しいことも多いのでシミュレーションを防止できるビデオ判定は素晴らしいシステムと言えるでしょう。
サッカーにおけるビデオ判定のデメリット、問題点
流動的なことが魅力のサッカーが・・・
現在ビデオ判定が導入されているテニス、野球、バレー、アメフト、ラグビーなどはワンセット毎、ワンプレー毎に流れをストップさせることが多いスポーツで、ビデオ判定を導入してもそこまで影響は大きくないでしょう。
しかしサッカーはファールやラインアウト以外でプレーが止まることがなく、タイムも取れないスポーツです。
守備から攻撃、攻撃から守備・・・というプレーが止まらない中での一瞬の駆け引きや判断、戦略が面白く、劇的な結果を生むスポーツなのでその流れをぶつ切りにしてしまうようだと競技の魅力が半減してしまいます。
上述した2016年のクラブW杯の判定でも、突然試合が止まって選手と観客が静かになってしまいました。戸惑い自体はルールが認知されてくれば治まると思いますが、あの長い間は流動性が魅力のサッカーに相応しいとは思えません。
ジャッジの時間が短縮し、競技性を変えないならビデオ判定は賛成
クラブW杯の判定のように流れがいちいち止まるようでしたらビデオ判定の本格導入は控えるべきだと思います。しかし導入が進むにつれてジャッジにかかる時間は短縮できるはずなのでもし瞬時に判定ができるようになればいいシステムになるでしょう。
後は2017年の野球WBCでのビデオ判定のように単なるケチの付けあいにならないよう回数の制限を設けることでしょうか。一応現状のルールだとビデオ判定が乱発されるようなことにはならなそうですが。
ビデオはあくまで主審の補佐という役割に留まるべきだと思います。競技性を変えることなく仮にビデオがなかったとしても問題なく試合が進行するようにルールを整備すべきでしょう。
サッカーは貧乏な人やスラム街に住んでいるような人からも広く人材を集められるのが今の世界的な競技規模に繋がっているとも思います。そういった人々や国はあまりコストを掛けられないので「ビデオがないとサッカーができない」状況だけは避けてもらいですね。