プロ野球のセリーグとパリーグにおいて最も目立つルールの違いが「指名打者」、通称DHと呼ばれるポジションの有無です。
セリーグには指名打者というポジションはなく、反対にパリーグにはありますよね。
近年交流戦や日本シリーズでパリーグのチームが優勢なのはこの指名打者制度があるからという声も聞かれます。
ではこの指名打者というポジション、あるとないでは何が変わってくるのでしょうか?この記事では指名打者(DH)制がもたらすメリットとデメリット、基本的なルール、なぜセリーグは導入していないのかなどを紹介していきたいと思います。
指名打者(DH)とは何か?
打撃のみを行うポジション!
ではまずそもそも指名打者(DH)とは何か解説していきます。
DHは英語で「Designated Hitter」、(指名された打者)という意味になります。
日本野球の公式戦に適用される「公認野球規則」の5.11によると、
先発ピッチャーまたは救援ピッチャーが打つ番のときに他の人が代わって打っても、その投球を継続できることを条件に、これらのピッチャーに代わって打つバッターを指名することが許される。
ピッチャーに代わって打つ指名打者は、試合開始前に選ばれ、球審に手渡す打順表に記載しなければならない。監督が打順表に10人のプレーヤーを記載したが、指名打者の特定がされておらず、球審がプレイを宣告する前に、審判員またはいずれかの監督が(またはその指名する者)がその誤りに気づいたときは、球審は、監督にピッチャー以外の9人のプレーヤーのうち誰が指名打者になるのかを特定するように命ずる。
と定義されています。
つまり端的に言えば「ピッチャーの代わりに打撃だけを行う選手」が指名打者というポジションになるわけですね。
なお、ピッチャー以外の野手ポジションにDHを適用することはルール上できず、現状DHはピッチャーの代わりにしかなりません。(ソフトボールはDPといって野手の代わりに打撃専門選手が入れる)
この指名打者制は日本のパリーグやWBC、MLBのアメリカンリーグ(アリーグ)を含むほとんどの公式戦で採用されているルールですが、高校野球甲子園大会や日本のセリーグ、MLBのナショナルリーグ(ナリーグ)は採用しておらず、投手も打席に立たなければなりません。
指名打者は必ず採用しなくてもいい?
ちなみにこの指名打者という制度、例え制度が採用されているパリーグのチームであっても必ずしも使用する必要はありません。
途中から特定の選手をDHにすることはできませんが、最初にDHを使わないと言えばそのまま9人で試合を始められます。
さらに途中でDHを解除して選手を守備に就かせることも可能。
最近ではパリーグの北海道日本ハムファイターズに所属していた二刀流の大谷翔平が試合途中でDHを解除し、そのままピッチャーとして投球をしたことがあります。
ただし、後述するメリットの大きさからDH制を採用しているリーグでDHを使用しない例はあまりありません。
指名打者(DH)制のメリットは?
より専門化された高い技術を披露できる
指名打者を採用していないリーグだと投手が1~9番のうちどれかの打順に入ることとなります。
しかしプロの投手は野手とは違う専門的な練習が必要なため基本的に打撃の練習はあまりしていません。
そのため打撃力にはあまり期待ができず、攻撃の流れが投手の打席でストップしてしまうことが多いです。大谷翔平や横浜のウィーランド、昔で言えば巨人の桑田真澄など打撃が得意な投手もいるにはいるのですが、数は多くありません。
さらに仮に塁に出られたとしてもベースランによる怪我のリスク、体力の消耗があるので最初からほとんどやる気を見せず立っているだけのような投手も多くいます。(ベンチからの指示もある)
もちろん先発投手は貴重なので戦術的な事情は十分理解できますが、見ていて気持ちのいいものではないですよね。
その点、DHというポジションがあれば投手はピッチングに、代わりに打席に入る打者は打撃に専念することができ、より高度な技術を比べ合うことができます。(できてないチームもあるが)
先発投手が育つ
先発投手に勝ち星がつくためには最低でも5回を投げ切らないといけません。パリーグではよほど先発がボコボコに打たれるか、怪我をするか、クライマックスシリーズや日本シリーズなどの短期決戦でない限り先発投手は基本的に5回を投げます。
しかしDHが採用されていないセリーグでは1アウト2,3塁などの大チャンスが訪れた場合、5回を待たず投手の打席に代打を送ることがけっこうあります。上記の通り投手の打撃には基本的にあまり期待できないので、少ないチャンスを確実にものにするためには交代せざるを得ない状況があるのです。
DH制があれば投手に代打が送られることは基本的にないので比較的長いイニングを投げることが可能になりますね。(ただし最近はパリーグもリリーフ陣の充実や球数などから早めに交代する事も増えている)
また上の項とも共通しますが、打線に投手が含まれないので投手からしたら気を休める暇がなく(言い方は正しくないかも)、緊張感のある展開が続きやすいですね。
選手の疲労を軽減できる
またDHは守備を行わず打撃のみを行うポジションということで、連戦で疲労がたまっている選手をDHに回すことで疲労を軽減させてあげることもできます。
DHの選手は守備の際、ベンチから見ているだけなので負担は少ないでしょう。
すでにメジャーリーグでは日ごとに主力をDHで回していくやり方をとっているチームがありますね。
日本でも2018シーズンがそうでしたが、雨天中止の数などによっては10数連戦など過酷な連戦になってしまうケースがあるのでそういう時にDHがあると助かりますね。
セリーグで引退した選手の中でも、DH制があればまだやれたという選手は多いでしょう。
単純に選手枠が増える
DHを使用するリーグは基本的には投手以外の野手9人で打撃を行うことになります。
つまり打撃専門とはいえ単純に選手枠が一つ増えるんですよね。
出場機会を増やしたい選手、特に若手の選手にとってこの1枠の差はかなり大きいでしょう。
もしその若手選手が打撃が得意であればDHに、守備や走塁が得意であれば主力選手をDHに起用して休ませその選手を守備に就かせるといった起用が可能になるからです。
7球団競合の末、パリーグの日本ハムファイターズに入団した清宮幸太郎も2018シーズンはまだ守備に不安がある(言うほど悪くないけど中田翔と比較した場合)ため主に1軍ではDHとして起用され、新人としてはかなり多い7本のホームランを放っています。
レフト、そしてファーストでの出場も含め打席を180も貰っているのです。チームによりますがDH制でなければここまでの打席は貰えなかったでしょうね。
このように育成面で大きなメリットがDH制度にあると言えます。近年交流戦や日本シリーズでパリーグが優勢なのとまったく無関係ではないと思いますね。
指名打者(DH)制にデメリットはあるのか?
DHなしの駆け引きが好きな人も多い
上記のようなメリットがあるDHという制度。正直システム的なデメリットは個人的にはほとんどないんじゃないかなと思います。
しかしセリーグにDH制度の導入が議論に上がった時、反対意見を表明する人が多かったのも事実です。
体感で最も多かった反対意見としては「駆け引きの妙が無くなる」というものだったと記憶しています。
セリーグでは上記の通り打線(主に下位)に投手が入るため、チャンスで投手に打席が回ってきた場合、投手をこの段階で交代させるべきかどうかという判断力、または監督の試合の流れを読むセンスと最効率を求めるための頭脳などが必要になり、その駆け引きが野球の醍醐味だろうという意見ですね。
投手の打席はエンターテインメント性がある
さらに投手の打席は見ている分には楽しいという意見もあります。
確かに滅多に打たない投手がホームランを打つと盛り上がりますしね。
パリーグファンの中には交流戦で普段は打席に入る機会のない投手が打つのを楽しみにしている人もいます。
そういったエンターテインメント性が失われるのは残念という人は少なくありません。
年棒が高騰する恐れ
指名打者(DH)に入る選手はほとんどの場合、打撃の破壊力が飛びぬけている選手が入ります。
そういった選手はビッグネームやベテラン選手または外国人選手であることが多く、年棒が高めであることが多いんですよね。
したがってDH制を採用することで球団に金銭的な負担が掛かる可能性があるのではないかとう心配をしている人がけっこういます。
セ・パの区別化
セリーグがDH制を導入することによってセリーグ、パリーグの区別化がなくなってしまうという事実もありますね。
いつだったかMLBのナリーグでDH制導入の議論がされたとき、たぶん偉い人が「異なるルールで戦ってきた2チームがワールドシリーズを戦うのが楽しみ」みたいなことを言っていた記憶がありますし(うろ覚え)、それは確かに日本シリーズに当てはめてみてもそう思います。
もともとアリーグでDH制が導入されたのもナリーグに比べて人気が劣っていたために区別をつける意味で導入したという経緯がありますし(パリーグも同じ流れ)、区別化が少なくなることを悲しむ人もいるでしょう。
この他に「打って投げて走れる」、これが全てできないとプロ野球選手じゃないだろうという意見もありますね。
いずれにしてもDH制に反対の人はシステム面の問題というよりも「野球本来の面白さ」という点で反対している人が多い気がしますね。非常に難しい問題だと思います。
セリーグはDH制を採用しないのか?
では実際に指名打者制を採用していないリーグ側の意見はどうなっているのでしょうか。
以前セリーグの公式サイトのQ&Aコーナーには指名打者(DH)制を採用しない理由9か条を掲載していたことがあります。(現在は掲載されていません)
内容はこちら
1. 1世紀半になろうとする野球の伝統を、あまりにも根本的にくつがえしすぎる。
2. 投手に代打を出す時期と人選は野球戦術の中心であり、その面白みをなくしてしまう。
3. 投手も攻撃に参加するという考え方をなくしてしまう。
4. DH制のルールがややこしくファンに混乱をおこさせる。
5. ベーブ・ルースやスタン・ミュージアルは投手から野手にかわって成功したのだが、そのような例がなくなる。
6. 仕返しの恐れがないので、投手が平気でビーンボールを投げる。
7. いい投手は完投するので得点力は大して上がらない。
8. 投手成績、打撃成績の比較が無意味になる。9. バントが少なくなり野球の醍醐味がなくなる。
1、2、3、5はDH制に反対するファンと大体同じ意見だと思います。
4はどうでしょう。確かにDH制は解除や交代が絡むとルールは少し面倒ですが慣れれば違和感はない・・・と思います。
6に関しては、MLBでは報復死球という行為が今でも平気で行われていますが、最近のNPBでは比較的報復は少ないと思います。
7、確かにエース級の投手はセリーグと言えどもそう簡単に交代はさせられません。2018年は巨人の菅野智之が10完投という素晴らしい成績を残していますしね。
8はどういう意味なんでしょうかね?セリーグとパリーグ間の比較でルールが違うからという意味だったら結構前からそうでしょうし、過去のセリーグとの成績比較であれば意味は分かります。しかしそもそもルールは時代によって変わっていく、というか大昔の記録は尊重するべきですが現代と比較する意味もないような・・・
9、ノーアウトでランナーが1塁に出た場合、投手はバントをすることが多いのは確かですね。しかしバントという戦術が好きかどうかは好みでしょう。ヒットを狙わない送りバントが野球の持つ醍醐味かと言われれば意見は分かれると思います。
難しいDH制導入問題
このように以前セリーグが掲示していたDH制を導入しない理由には理解できるところと理解しにくいところがありますが、導入に難色を示す球団もいるのは事実です。
しかしすでにセリーグ公式ページにはこの9か条は掲載されていませんし、最近でも頻繁にDH制の導入が議論されており少しだけ風向きが変わってきています。
個人的には投手の打席も見たいですし、セパでルールが違うというのは面白いと思います。しかし育成面でのメリットなどを考えるとDH制は非常に有用なので難しい問題ですね。
セリーグが将来的にDH制を採用するかどうかは分かりませんが、議論が紛糾することは間違いなさそうです。
セリーグとパリーグの違いについてはこちらもご参考下さい→プロ野球のセリーグとパリーグの分け方は?意味や由来も
コメント
いろんな球技の中で野球は権利と義務がはっきりしている。投手は打球をさばいたり、ベースカバーに入ったり野手の仕事や義務を果たしている。守備にも就かない者を打席に立たせてまで、唯点を取りたいのか?オールスターは先発投手でも打席がまわるまで、マウンドに立たないのと、オープン戦は練習試合だからともかく。公式戦は5回の試合成立まで、投げないと勝ち投手の権利が得られない。打席は野手の義務を果たして権利がありパリーグのピッチャーでも、打席に立ちたい者もいる。
DH制度は大リーグにしたがっていると思う。しかし選手の思いはセ・パ長所短所は今年ドラフトの場で有望選手のセリーグを避けた風に見え現役選手も同じようにどちらが良いか思っているかもしれない。私はDH制度は廃止すべきだと思う。同じルールで競い合うことは他のスポーツ競技も同様、プロ野球も同じようになればと願うものです。